2021年6月17日

第9回 長期修繕計画を考える その2

「大規模修繕かけこみ寺」外装専科の伊藤岳副社長に、業界リポーターNAKA氏がマンションの大規模修繕工事に関する問題点と改善策を聞く連載シリーズの第9回。

「長期修繕計画」をどう考える その2

ーー驚きました。ふつうはきちんと実情に合わせて「長期修繕計画」を立てているのでしょうが、中にはかなり意図的に安めに設定されるケースがあるのですね。それも管理会社の利益のために考えられているということなど、一般のマンション購入者にはわからないでしょう。ここは管理組合がしっかりチェックしなければならないと思いますが……。

伊藤 ︎それもそうですし、管理会社サイドでも販売があまりにも性急にすぎて長期修繕計画がアバウトになり、その結果、修繕項目の抜け落ちや数量の誤算などもあるようです。

まず、そうした予想外のことが生じる可能性があることを理解したうえで、一度作成した長期修繕計画を見直すことが必要になるのです。

では、「何を見直すか」ということですが、

  • ●マンションのどこが傷んでいるのか?
  • ●その傷みはどれくらいか?

●修繕にはどんな補修が必要となるか?

などを総合的にチェックしなければなりません。これが劣化診断です。そうした診断を綿密に行えば、長期修繕計画で必要とされていた補修が不要、もしくは時期尚早ということもあり得ます。

例えば、マンション竣工後、何年後には鉄錆塗装とする計画があったとしても、実際の錆が補修するほどでなければ計画通りに修繕する必要はありません。「長期修繕計画」とは、あくまで「計画」ですから、管理会社の決めた計画にとらわれず、現実の建物の状態に合わせた修繕が求められるわけです。つまり、数年に一度は計画の見直しをすることが必須となるのです。

ーー長期修繕計画は管理会社が立てるわけですが、彼らはプロですから、自分たちが作成した計画では、マンションの劣化実体にそぐわない状況や不備な実情がわかると思うのですが……?

伊藤 確かに長期修繕計画は、ふつう管理会社が策定して管理組合に提出しますね。だいたいは管理委託業務の一環として管理会社が請け負っているものです。

ところが、最近はそうした修繕計画の齟齬を指摘され、揉めるのを嫌ってか、業務委託契約更新時に、次の長期修繕計画策定業務を行わないとする管理会社が出てきた、というケースも現れているようです。

ーーそんなことがあるのですか?

伊藤 ええ、国土交通省が「マンション標準管理委託契約書」などで、「長期修繕計画案の作成業務及び当該計画の見直し業務については、本管理業務委託契約とは別個の契約とする」と明記されていることが根拠となっているのです。

これは平成21年(2009年)5月に国交省が「マンション標準管理委託契約書」を改正したことの影響です。それまでは修繕計画の策定が管理会社の業務となっていましたが、以後はその縛りが薄められたと解釈できるわけです。

管理会社にとって長期修繕計画を策定するにはマンションの状態調査や診断でそれなりのコストがかかります。その経費を削減するには、一般的な長期修繕計画表のプロトタイプ(基本形)に基づいて作成することが便利です。ですが、それではマンションごとに違いのある建築実態や経年劣化にそぐわないことも生じます。それを詳細な計画にしろ、と要求されるとコストが合わないとのことで断るケースが出てくる。先の国交省の改正を盾に、「そもそも長期修繕計画策定はサービスだ」という理屈が通ることにもなるのです。

ーーそんな事態に対して管理組合としてはどうすればいいのですか?

伊藤 仮に管理会社が「サービスだ」として長期修繕計画の策定を拒んだり、また長期修繕計画表のプロトタイプに従った計画を提出してきた場合は、管理会社とは別個に、マンション長期修繕計画を策定できる専門機関に依頼することが必要となるでしょう。

その方法も一つではありません。

  • ●外部専門機関に1から長期修繕計画作成を依頼する
  • ●外部専門機関に管理会社の策定した長期修繕計画をチェックしてもらう

●管理会社との信頼関係がしっかりしている場合は、外部専門機関・管理会社・管理組合の三者で内容を確認し、見直す

こうしたことが考えられますが、大切なのは管理組合がマンションの居住者が納得できる説明根拠を持つことが大切です。

例えば「自分たちのマンションに対して管理会社の職分はどこまでなのか」「管理会社が策定した長期修繕計画は実態にあっているのか」「修繕積立金は妥当なのか」など、計画の内容などを把握していることが管理組合には求められるわけですから、長期修繕計画は他人(管理会社)任せにしておくことなどできないことなのです。