2021年6月17日

第8回 長期修繕計画を考える その1

「大規模修繕かけこみ寺」外装専科の伊藤岳副社長に、業界リポーターNAKA氏がマンションの大規模修繕工事に関する問題点と改善策を聞く連載シリーズの第8回。

「長期修繕計画」をどう考える その1

ーー「修繕積立金」が不足するケースは多発しているという実情は、マンション居住者にとって大問題です。その原因に、管理会社などが利益を出すために毎月の管理委託費を高めに設定し、代わりに修繕積立金を安く抑える傾向があるとの指摘は、マンション購入希望者にとって裏切られたような気がするでしょうね。

では、そうしたことが起きないようにするにはどうしたらいいか、お聞きしたいところです。

伊藤 ︎大切なことは「長期修繕計画」をしっかり立てることです。そのためには大規模修繕の実施時期、修繕工事の内容、どれくらいの費用がかかるかなどを予測し、そのときに必要な修繕積立金を算出しなければなりません。

ところが、その金額がどのようにして決められているかについて、以外に知られていないのです。

ーー確かに修繕積立金として毎月いくら、ということは確認しますが、ではなぜその額になるのかについては、あまり深く考えていないようなところがありますね。

伊藤 新築マンションを購入されるときの契約書や、中古マンション購入であれば重要事項説明書の付属書類に、必ず「長期修繕計画」の書類が含まれています。大規模修繕計画は築12年ごろに行うのが普通ですが、長期修繕計画表は概ね35年間程度を目安にしています。その過程に大規模修繕があるわけです。つまり、長期修繕計画とは、最初の大規模修繕工事のために計画するものではなく、最長35年後を見通した修繕計画ということですね。

ですので、差し迫ったものではないことで、あまり深く考えないきらいがあるのかもしれません。

といっても、やがて必ずやってくるものですから、計画は立てておかなければならない。では、何を修繕しなければならないかというと、2つに分けて考えます。

  • ●建築工事として「屋上防水」「外壁補修」「鉄部塗装」など

●設備工事として「給水設備」「排水設備」、機械式駐車場がある場合はその補修など

こうした建築工事と設備工事を見据えて、いつ工事をするのか時期の見込み、修繕工事にはいくらぐらい費用がかかるかの見込みを立てておかなければなりません。こうした工事金額を仮想算出することが長期修繕計画です。この計画に沿ってマンション購入者は毎月修繕積立金を支払うことになりますが、問題は仮想算出した計画が修繕工事費用の実態に合致しているかどうかです。

ところが、前回で指摘したように、管理会社の一部が安めに修繕積立金を設定することでマンションの3割以上がおうおうにして第1回目の大規模修繕でさえ積立額が足りなくなってしまう。不足額を居住者から一時金として徴収したり、金融機関から借り入れて乗り切っても、基本額をそのままにして積み立てるなら35年後にはとんでもない不足額が生じてしまうことはいうまでもありません。

ーー前回のお話で、修繕積立金は1回目の大規模修繕計画のためにあると思っていましたが、そうではなくて25年から35年後を見越して計画するということなんですね。そうすると、最終的にどれほど不足することが考えられるのですか?

伊藤 マンションの規模などで一概には言えませんが、1億円を超える工事費用が不足したという実例があるようです。

管理会社が管理費(管理委託費)を高めに、修繕積立金を安めに設定することも原因の一つですが、そのほかにも修繕項目の過不足もあります。

4、5回のコラムでお話ししたように「共通仕様書」による修繕項目を基本にすれば、不要な項目までカウントされる可能性が高く、修繕積立金の総額が上がってしまうかもしれません。それだけではなく、不要な修繕まで押し付けられたうえに、項目あたりの修繕金額が安めに設定されていることで工事費用が不足してしまい、増額を求められることもあるでしょう。

一方、マンションごとの特異性を無視するため必要な項目が抜けてしまっていたら、その分の工事が追加され修繕積立金が不足することも考えられます。そのうえ管理会社が見た目の安さを考えて修繕積立金を抑えていたらどうなるでしょう。言うまでもありませんが、確実に修繕積立金は不足します。

ですから、そんなことに陥らないように「長期修繕計画」は、工事項目や工事費用をしっかりと算出し、毎月の修繕積立金を設定しなければならないのです。